不機嫌主任の溺愛宣言
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翌日。
迎えに来た忠臣の車に乗り込もうとして、一華は目を疑う。あまりの驚きに何度も目をパチパチとしばたいてしまった。
昨日までは実にシンプルでそっけなかった車内に。ぬいぐるみが飾ってある。アロマの空気清浄機が取り付けられている。ピンクのシートクッションが敷かれている。とどめには静かなボリュームでクラシックのBGMまで流れている。
あまりの驚きに、身体を半分車内に入れたままポカンとしていると
「……ぬいぐるみは少し子供っぽかったか」
と、独り言のように忠臣が呟いた。
「いや、子供っぽいとかそういう問題じゃなく。どうしちゃったんですかこれは」
そう答えて一華はキョロキョロと車内を見回しシートに座る。
ギアをバックに入れ、後方を見やり鮮やかなハンドルさばきで車を切り返しながら忠臣は
「女性を乗せるには殺風景が過ぎる車だと気付いた。すまなかった」
ますます一華をポカンとさせる事を呟いた。
……もしかして、これ全部、私を気遣って?まさか、昨日私が送迎を断ったことを気にして?
そうとしか考えられない忠臣の発言に、一華はどう答えていいか分からない。
よく見るとダッシュボードの隣にはキャラクター付きのドリンクホルダーまで着いていて、ご丁寧にチルドカップのコーヒーまで入っている。
それに気付いた一華を横目でチラと確認し
「さっき買ったばかりだからまだ冷えてる筈だ。冷たいうちに飲むといい」
忠臣はニコリともせずにそう言った。