不機嫌主任の溺愛宣言
※※※
そうか、コーヒーは飲めなかったのか。リサーチ不足だった。
いつもの朝礼を終えた後の事務室で、忠臣はパソコンのキーボードを叩く手を止めて考えていた。ディスプレイに映ってるのは物産展の店舗リスト。もうすぐ地下食品売り場にとって半年に一度の大型イベントがやってくる。
なのに、忠臣の手はさっきから何回も止まっていた。視線はディスプレイを見つめたまま、思考がどこかへ行ってしまう。
……けれど今日は『送迎はもういい』とは言われなかった。という事は、車内の環境を整えたのは正解だったと云う事か。
考えて、忠臣は少し安堵した。
昨日、一華を初めて車に乗せたとき、忠臣は激しく後悔をした。沈黙の車内、ずっと窓の外を見ている一華。流れる気まずい空気の中で『なぜ俺は何の準備もして来なかったのか』と。
一華を送迎出来る事で頭がいっぱいで何も気が回らなかった。彼女を車に乗せて初めて自分の準備不足に気がつく。
車内は暑くないだろうか。シートは座り難くないだろうか。車内の臭いが気になったりはしてないだろうか。せめて何か楽しい話題でもと思っても、女嫌いの忠臣が女性の喜ぶ話題を知ってる筈も無く。ただただ気まずい沈黙が流れる中、自分の顔がこわばっていくのが分かった。
そうして挙句の果て一華から告げられたのが
『明日からはいいです』
冷酷にも聞こえるお断りの言葉だった。