不機嫌主任の溺愛宣言
その男、不機嫌
(1)
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前園忠臣は女嫌いで有名だった。
厳格な家庭で育ち、中学高校は男子校に通った彼にとって、女は理解の出来ない生き物であった。
元々容姿の整っていた忠臣。彼に言い寄る女は多かったけれど、却ってそれが忠臣の女性不信を強くする。特に大学に入ってから頻繁に起きた忠臣の奪い合いが酷かった。彼の意思とは関係無しに女子たちは勝手に恋をし騒ぎ揉め事を起こす。そうして
――なんで女はすぐに泣くんだ。なんで女はすぐに群れるんだ。なんで女はすぐに妬むんだ。わずらわしい。面倒くさい。
彼に確固たる女性への不信と偏見を植え付けた。
だから。
4月のある日。店内の人気の無い地下倉庫から穏やかでない様子の声が聞こえてきたときも、忠臣は眉間に皺を寄せて大きな溜息をひとつ吐いたのであった。
「なに人の男に色目使ってるんだよ!ふざけんな!」
「使ってませんけど」
「とぼけんな!お前が和也に媚びてんの知ってんだよ!」
あーあ、なんだこれは。仮にも今は営業時間中だぞ。こんなの、もしお客様に聞こえたらどうするんだ。しかもなんて下劣な話題だ。
明らかに男女絡みの揉め事。どうやら取った取られたで女ふたりが言い争ってる最中らしい。最悪だ、首をつっこみたくないと忠臣は思う。
しかし現場の責任者として注意しないワケにはいかない。揉めるのは勝手だが終業後にどっかよそでやれと。
しぶしぶとした思いで忠臣がドアを開こうとした時だった。