不機嫌主任の溺愛宣言
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昼休み。忠臣は福見屋1階に入っている生花店へやって来ていた。車に飾れそうな花は無いだろうかと見に来たのだ。
「あら前園主任さん、珍しい」
出迎えた花屋の従業員は土屋という勤続18年の大ベテラン。50過ぎの気風のいいオバちゃんと云った風情だ。当然忠臣の管轄ではないが、勤続年数が長いことと時々喫煙所で会う事から土屋はよく知った顔である。忠臣も女嫌いと言えど、さすがに孫がいるような歳の快活な土屋相手に嫌悪を抱くことはなかった。
「ちょっと花を探しにな。車内に飾るのに適した花を探してる」
「車、ですか?」
忠臣の言葉に、土屋は丸っこい目をくりんと剥いて驚いて見せた。
「珍しいものをお探しですこと。けど、車に飾る花なんて聞いた事がありませんわ。普通は造花とかなんじゃありません?」
「そうか……やはり生花は駄目か」
忠臣はハーっと嘆くような溜息を吐き出し、残念そうに瞳を伏せた。そんな真剣な様子の堅物主任を見て土屋は実に不思議に思う。
「車に花だなんて、まるでお姫様でも乗せるみたいじゃないですか。一体どうしちゃったんですか?」
なんだってそんなメルヘンなことを、この“ミスター不機嫌”は真剣に考えてるのだろうか。不思議すぎて土屋は追及せずにはいられない。けれど、帰ってきた答えは、彼女をますます困惑させるものであった。
「……お姫様か。まあ大体合ってるな。最大限、丁重に乗車させたいと思っている」
「……あらー。まあまあ、あらあら」