不機嫌主任の溺愛宣言
意外過ぎる忠臣の返答に、土屋は驚きのあと実に楽しげな笑みをニィッと浮かべる。
「ついに女嫌いで有名な主任さんにもそんな人が出来たのねえ。あらあら、良かったじゃないですか」
「“そんな人”?何が良かったんだ?」
「あらあら、とぼけないで下さいな。そんなに丁重に扱いたい人だなんて……うふふ、主任さんてばよーっぽどその方に惚れこんでいるのね」
「……惚れ……!?」
土屋の言葉に、忠臣は雷で打たれたような盛大なショックを受けた。
――……惚れ……!?俺が姫崎一華に惚れこんでるだと!?そんな馬鹿な、この俺が女なんかに……
そこまで光の速さで思考を巡らせてから
「ああ」
低く呻いて、忠臣は両手で顔を覆った。
――……そうか。そうだ。俺は“女”に惚れたんじゃない。
“姫崎一華”に、惚れたんだ。
自分の中で絡まっていた糸が瞬時に解ける錯覚がした。これが恋なのだと、あれほどわずらわしいと軽蔑していた感情なのだと、忠臣は知る。
……こんなに…こんなに凄い感情なのか、恋とは。心を四六時中占拠され、熱に浮かされたように思考が鈍り、彼女の一挙一動に一喜一憂してしまう。まるで自分が自分じゃない。持て余して、苦しくて、なのに何処か耐え難い歓喜が潜んでいて。
「これが……恋……」
立ち尽くし、惚けたように呟いた忠臣を、土屋は「あらあら」と楽しげに細めた目で眺めていた。
そして。
「……土屋さん。花束を、ひとつ作ってくれないか」
スクェアフレームを指で押し上げながら不機嫌そうに言った忠臣の言葉に、土屋は威勢よく頷く。
「はいはい、とびっきり綺麗にアレンジしてあげますよ。どの花でお作りしましょう」
「……この店で一番麗しく可憐な花を……頼む」
そう答えた忠臣の顔は、不機嫌そうな表情に、頬を赤く染めていた。