不機嫌主任の溺愛宣言
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『君を連れて行きたい場所がある。今夜PM8時半に、駅前のカフェで待っていて欲しい』
そんな突拍子もないメールが一華の元に届いたのは、時計の針が昼を過ぎた頃だった。
初めて来た忠臣からのメールがそんなワケの分からないもので、一華はこれをどう捉えていいか頭を悩ませる。まさか今頃忠臣がでっかい薔薇の花束を用意してることなど知る由もない彼女は、腑に落ちないながらも朝の送迎の恩から無碍に断る訳にもいかず、しぶしぶと了承した。
なんだか、嫌な予感しかしない。と思いながら。
そうして就業後。一華が約束の時間に約束の場所で待っていれば
「すまない、待たせた」
1分たりとも遅れていないのに、慌てた様子でカフェに駆け込んでくる忠臣の姿が。
「大丈夫、待ってません。時間ぴったりです」
「なら良かった。じゃあ、行こう」
「あの、何処へ行くんですか?そもそも何の御用ですか?」
怪訝な表情を向け椅子から立ち上がらない一華に、忠臣は思わず口元を歪める。気まずいと言わんばかりに。
「……今は言えない。着いて来てもらえば分かる」
なんと怪しい返答か。さすがに一華も一瞬警戒心を抱いたけれど、彼の鞄に青いファイルが幾つも詰め込まれているのが見えてそれを解いた。
どうやらこの約束のために忠臣は大慌てで仕事を切り上げてきたらしい。背表紙に『物産フェア』のラベルが付いたファイルは、恐らく家で仕事の続きをする為の資料なんだろう。
堅物な忠臣が仕事より優先させる程の約束なのだからくだらない事ではあるまい、と一華は思い直し「分かりました」とだけ告げて席を立ち上がった。