不機嫌主任の溺愛宣言
夜の街を走る車の中で、忠臣は一華に何度もぎこちない声を掛ける。
「……仕事は順調か?」
「今日の売り上げは提出したと思いますけど、目を通されてないんですか?」
「いや……『Puff&Puff』は今日もいい数字だった」
一華に冷徹にあしらわれて、ぎこちない会話は気まずく終了する。忠臣は好きな女性に対する自分のコミュニケーション力の無さを恨んだ。
微妙な沈黙と、ぎこちない会話と。それを幾度か繰り返し忠臣の心臓を痛めながら、車はやがて夜景が一望出来る高台へと到着した。
デートスポットなんだろうか、ちらほらと見える人影は皆カップルで仲睦まじく景色を眺めている。
なんでこんな場所に連れて来たのだろうと一華が怪訝に思いながら車から降りようとすると。
「手を」
先に降りた忠臣が助手席のドアを開け、恭しく彼女に向けて手を差し伸べた。
「いえ、自分で降りられますから」
「……そうか」
またもや姫に傅く従者みたいな態度を取られて一華は面食らいながらも冷静にあしらう。
けれど。
車を降りた途端、今度は真っ赤な薔薇の花束を目の前に差し出され
「これを君に」
真剣な眼差しでそう告げられてしまった一華の表情は、ついに驚きに引きつってしまった。