不機嫌主任の溺愛宣言
「……ど、どういう事でしょうか?」
「薔薇は嫌いか?」
「そうじゃなく。意味が分かりません」
一華の言葉に、忠臣はわずかにたじろいだ様子を見せた後「フー……」と大きく息を吐き出し、自分の顔を覆うように眼鏡のフレームを手で直す。
「すまない。手順が違ってたようだ」
て、手順?
忠臣がボソリと吐き出した言葉に、一華は目をしばたかせてしまった。
それは手順って問題なの?薔薇の花束を差し出すのに手順が関係あるの?
彼の謎の言動の数々に、一華の麗しい唇は馬鹿みたいにポカンと開いてしまう。
そんな彼女の表情を読み取って忠臣は頭を痛める。綺麗な夜景、薔薇の花束。女性を喜ばそうなどと思った事のない彼にとって精一杯のロマンチストな演出のつもりだったのに。
そこまで考えて、忠臣はかぶりを振って自嘲した。
――女が嫌いだと言いながら、俺は姫崎一華をその枠に閉じ込めようとしてるじゃないか。
「姫崎一華。教えて欲しい、君の好きな花はなんだ?」
突然の質問に戸惑いながらも、一華は素直に答える。
「……クレマチスが、好きですけど……」
「そうか、すまなかった。次はそれを用意する」
そう言って忠臣は口元に僅かに弧を描くと、持っていた花束を高台の上から大きく放り投げた。
赤い花びらが紙ふぶきの様に舞って下の雑木林へ落ちていく。
「えっ!?あ、あの!」