不機嫌主任の溺愛宣言
(3)
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――幸せな予感しかしない。
真摯に響いた声が、あれから一晩経った今でも一華の耳には木霊のように残っている。瞼にやきついた闇夜に舞い散った薔薇の花弁の光景と共に。
「姫崎さん、どうかした?」
「あ、いえ。すみません」
AM9時30分。
いつものように開店前の準備に勤しむデパ地下の面々。けれど、一華の手は今日は何度も止まっている。
同じ【Puff&Puff】の先輩販売員、尾形に声を掛けられ一華はショーケースを拭いていた自分の手がまた停止していた事に気が付いた。
いけない、何をボーっとしてるんだろう。
慌てて一華は気を取り直し手早くガラスのケースを消毒液で拭いていった。けれど、ふとした瞬間に意識はまた昨夜の出来事へと飛んでしまう。
今まで男に告白された事など何度でもあった。それこそ、まだ男に嫌悪を抱かず純粋だった頃には、素直に感動して胸が震えるような熱い告白だって。
けれど――昨日の忠臣はあまりにもインパクトが強すぎた。
確か、35歳。自分より一回り年上のはずだ。そんな充分すぎる大人がまるで初恋を知った少年みたいな告白をするなんて。普段は賢くて冷静な性格だけに余計に衝撃だ。
いや、昨日だけじゃない。送迎の車の時だって。酸いも甘いも経験してきた大人の男が、たちまち愚直な従者のようになってしまって。
……なんだか、困った人だなぁ。と考えつつ、一華がレジにつり銭を補充していると、エスカレーター前のスペースから「朝礼を始めまーす」右近の声が聞こえてきた。