不機嫌主任の溺愛宣言
けれど、ここで同情して優しい言葉を掛け勘違いをさせてしまったら面倒な事になる。
一華は今までの経験から、相手を振るときに中途半端な優しさが仇になると散々学んできたので
「分かりました」
冷酷なくらい淡々とした声で、運転席のほうを見やりもせずに告げた。
朝の送迎ももちろん断った一華だったが、忠臣はそれについては首を横に振った。
「恋愛感情抜きで、ただのおせっかいだと思って続けさせて欲しい。俺に気がないからと言って、君がまた痴漢被害にあっていいと云うものでも無いからな」
その言葉に、どこか素直に感動してしまった自分に、一華は戸惑う。
……ふ、振られたんならスッパリ繋がりは失くせばいいのに。未練がましい。
必死にそう思い込もうとしたけれど、今まで駆け引きも無く向き合ってきた忠臣の言動を思い出すと彼の親切は下心があるようには思えなく
「……分かりました。でも、もう車を飾ったり飲み物を用意したり変な気遣いはしないで下さい」
そんな抵抗を口にするのが精一杯だった。
かくして。
朝の送迎という繋がりは保てたものの、一世一代の告白をすがすがしい程キッパリ断られた忠臣。
35歳にして初めて知った失恋の痛みに、彼はあれから一秒の睡眠も一口の食事も取れなくなっていた事を、一華は当然、知らない。