不機嫌主任の溺愛宣言

視察を終え会議室に移動する途中の廊下で、梓は後ろを歩く忠臣に話し掛ける。

「今度の物産展、【Puff&Puff】に地方限定商品を加えて参加させるって案だけど、アレいらないわね」

突然の上司の言葉に、忠臣は驚いて足を止めた。それに気付いた梓も足を止めゆっくりと振り向く。

「【Puff&Puff】は今、うちの地下で最も売り上げの大きい店舗です。勢いもありますし、【Puff&Puff】本店が企画してる地方限定ロールケーキとのコラボレーションは話題にもなります。中止にさせる理由が見当たりませんが」

毅然とした忠臣の反論に、梓は『やれやれ』と云った苦笑いを表情に乗せて腕を組んだ。

「売り上げが大きいって……あの販売員が原因でしょう?本社の耳にも届いてるわよ、大宮店の【Puff&Puff】の好調はアイドル効果だって。容姿のいい子を餌に男性客の売り上げを伸ばしてるだけだってね。そんな人気を買い被られて物産展の貴重なスペースを取られても、ねえ?物産展は女性客とシニア層の購買が大事なんだから、だったら老舗中華の【横浜養老】を入れるべきだわ」

絶対的である本部上司の言葉。普段の忠臣なら大人しく引き下がって検討を試みただろう。けれど。

「その販売員とは、姫崎一華の事ですか?」

忠臣は、スクエアフレームをキチリと直しながら、鋭い眼光で正面に対峙した。

「名前なんて知らないわ。さっき店舗にいた子の事よ」

梓の答えに、忠臣は眉間に一本皺を刻むと声のトーンを一段落としいつもの“ミスター不機嫌”へと変貌する。

「上原部長ともあろうお方が、うちの【Puff&Puff】の人気をそのような視野で見られるとは残念です。お言葉ですが、現場主任として私の見解は違います。

姫崎一華は男性客のみならず、丁寧で心の籠もった接客で老若男女全ての層から指示がある事は、アンケートや客層データで証明済みです。そうして【Puff&Puff】の商品を召し上がったお客様の多くが、その品質の良さにリピーターになっているのも数字として現れています。

【Puff&Puff】の確かな品質。そして販売員の行き届いた教育。そのふたつの大きな信頼は福見屋デパートのテナントとして相応しいに足るものですし、物産展の中心店舗としても充分期待が見込めると、私は思います」
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