不機嫌主任の溺愛宣言
毅然とした理詰めの反論。冷ややかささえ感じる忠臣の厳しい眼差しに見据えられ、梓は自分の意見が感情的に思えて、グ、と奥歯を噛みしめた。
「……そこまで前園くんが言うのなら、物産展ではさぞや素晴らしい数字が出るんでしょうね」
「期待して頂いて結構かと」
「……目標数値、今一度設定し直させてもらうわ」
梓は表情を変えない忠臣を一睨みすると、踵を返しカツカツとヒールを鳴らして会議室へ向かった。その後を、忠臣も不機嫌を消せない表情のまま黙って着いて行った。
彼は気付いていない。
廊下の手前、エレベーターの横の階段で、噂の張本人が息を潜めて立っていたことを。
提出する書類を事務所に持っていく途中、偶然聞こえてきた【Puff&Puff】の名前に、一華は階段を登っていた足を思わず止めた。
息を潜めると、次いで聞こえてきたのは【Puff&Puff】と自分を貶める女性の声。
――……またか。どんなに頑張ったって、結局はいつも『顔がいいから』で済まされてしまう。
一華は自分に向けられた不当な評価に、飽き飽きとした悲しみを抱く。
一華はふんわりと優しい美貌とは裏腹に、中身は根性タイプの努力家だった。勉強も運動も仕事も、人一倍努力し結果を出す。けれども何をしたって結局は『一華は顔がいいから』と判を押したような評価が返ってくるのだ。
成績が伸びたのも部活のレギュラーに選ばれたのも『一華は可愛いから先生が贔屓してる』と噂され、仕事で働きを評価されれば『可愛いからって色目を使って売り上げを伸ばしてる』と揶揄される。
頑張って結果を出せば出すほど、妬まれ批難され。もう頑張るのも馬鹿らしいと、23歳の一華はそろそろ思い始めていた頃だった。