不機嫌主任の溺愛宣言
階段の影で忠臣の話を聞いていた一華は胸が締め付けられるのが止まらなかった。
会話の様子からして、話してる相手は上司だろう。なのに。忠臣は不当なレッテルを真っ向から反論してくれた。『売り上げは顔のせい』だと決め付けた女上司に、それは違うと言い切ってくれた。
もしこれが、一華の目の前で行われていた会話だったら、彼女は忠臣の言葉を半信半疑で受け止めていただろう。私の前でいいカッコしてるだけのポーズじゃないかと。
けれど、そうじゃない。
本来、一華の知らないところで、忠臣は彼女へのレッテルをきっぱりと否定してくれたのだ。
――前園主任は、裏表がないし駆け引きもしない。そして、私と云う人間をきちんと見てくれてるんだ……。
さっきの忠臣の毅然とした反論と、昨日の純粋すぎる告白が一華の胸に思い出されてキュウキュウと締め付ける。
変なひと。変なひと。35歳にもなって純粋で駆け引きも出来なくって。私をかばって上司に反論しちゃうなんて不器用で。
いっつも不機嫌な顔して何考えてるか分からないし。
全然カッコよくない。
一華は持っていた書類の封筒を、自分の感情を押し込めるようにぎゅっと胸に抱えた。
けれど、湧き上がってくる気持ちが抑えきれない。
――カッコよくないけど……嫌いじゃ、ない。