不機嫌主任の溺愛宣言
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翌日の朝。
今日も忠臣は一華を送迎するために戸田駅のロータリーへ向かう。
いつものようにロータリーの隅で待つ一華を見つけ、車を止めると。「おはようございます」と言って助手席に乗り込んだ一華が忠臣の前に何かを差し出してきた。
驚いて見やると、それはきりりと花弁を開かせた一輪の青紫色の花。
「これは……?」
目をしばたかせながら尋ねた忠臣に一華は瞳をまっすぐ見据え答える。
「クレマチス。私の好きな花です。花言葉は、高潔。それと精神の美しさ」
一華の紡いだ言葉を聞いて、忠臣は目の前のたおやかでありながら気高い花に彼女の姿が重なった。
ああ、この花はとても姫崎一華に似ている。と。
ふと、寒色の花弁を見つめる忠臣の瞳に優しさが滲んだ。つるの細いクレマチスをそっと一華の手から受け取ろうとする。と。
「……前園主任。私は愛を謳う薔薇にも、可愛げのあるコスモスにもなれません。クレマチスは綺麗だけれど、強すぎて人を傷つける弦も持ってます。それでもいいと仰るのでしたら……どうぞ受けとって下さい」
白磁のような頬をわずかに染めて、一華は淡々とそう言った。その彼女の姿に、言葉に、忠臣の思考が一瞬真っ白になってからフル回転する。
端正な顔はみるみる赤くなり、それを誤魔化そうとするかのように手でスクェアフレームを直そうとしたが、止めた。
止めて、忠臣は真っ赤に染まった顔を隠そうともせずまっすぐに一華を見つめる。