不機嫌主任の溺愛宣言
「花が……クレマチスがこんなに美しい事を、俺は今まで知らなかった。姫崎一華、俺は、その……この凛々しく美しい花を、世界で一番大切に愛でたいと思う」
「大げさです。主任」
クレマチスの弦を掴み合ったふたりの指がかすかに触れる。微かに頬を赤く染めた一華と、耳まで赤くなった忠臣の視線がぶつかり合い、高鳴る鼓動が聞こえそうなほど車内は張り詰めた静寂に包まれた。
しかしついに耐えられなくなった忠臣が片手で顔を覆い、盛大に俯かせる。
「……すまない。嬉しすぎてどうしていいか分からない。気持ちを落ち着かせるから、ちょっとだけ待ってくれ」
出来る事なら大声で叫んで走り出したい。抱えきれない喜びを爆発させたい。いや、むしろ本当は……目の前の姫崎一華を力いっぱい抱きしめたい。息も出来ないほどに。
そんな熱くもどかしい想いを無理矢理自分の中に押し込めながら、忠臣は深呼吸をする。そして。
「……恋を、教えてくれてありがとう」
心の底からひとつの言葉を吐き出して、一華に届けた。
その純粋な想いが詰まったひとことは確かに彼女の胸に届き
――こちらこそ――
麗しい唇に、確かにそう紡がせた。
けれど、音もなく呟いたそれを俯いていた忠臣が目にする事はなく。
「主任。申し訳ないんですがそろそろ出発して頂けませんか?遅刻しちゃうんですけど」
代わりに彼の耳に届いたのは、いつもと変わらない淡々とした一華の言葉だけだった。