不機嫌主任の溺愛宣言
その男、初心者
(1)
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前園忠臣は悩んでいた。眉間に深く皺を刻み、堅い雰囲気のスクェアフレームの奥で不機嫌そうに目を伏せ、口元を厳しく引き締めて。
どこからどう見ても120パーセント不機嫌そうな彼の様子に皆恐れおののき、朝から忠臣に声をかけるものは右近以外誰も居なかった。
「主任は何をあんなに怒ってるんだ」
「地下の売り上げ悪いのかしら?それとも大きなクレームでも入ったとか?」
ヒソヒソと噂する従業員たちの声も忠臣の耳には届かない。彼はそれどころではないのだから。
ここ数日、忠臣の頭を悩みに悩ませている原因。それは売り上げでもなければクレームでもなく。
恋人になって3日も経つのに、以前となにひとつ変わらない一華との関係についてだった。
相変わらず一華の朝の送迎を続けている忠臣。出勤中の車の中は密室でふたりきりになれる甘い時間のはずであった。なのに。
『おはよう』
『おはようございます。宜しくお願いします』
『……』
『……』
『……いい天気だな』
『そうですね』
『……』
『……』
『……少し風が強いな』
『そうですね』
『……』
『……』
『……仕事は順調か?』
『先日の売り上げは提出したと思いますけど、目を通されてないんですか?』
『いや……【Puff&Puff】は昨日もいい数字だった』
『……』
『……』