不機嫌主任の溺愛宣言

そんな進展の無いぎこちない会話が、3日間。

いくら初めての恋愛とはいえ、これは恋人の交わす会話じゃあないだろうと忠臣は苦悩する。しかも、一華に至っては未だに忠臣を『前園主任』と役職付きで呼ぶものだから、もはや恋人もへったくれもない。

自分たちは本当に付き合ってるのだろうかと、忠臣は日に日に不安を増すばかりで。“ミスター不機嫌”に拍車がかかるのも仕方のない事であった。

――なんとか、姫崎が興味を持ってくれる会話はないものか。

厳しい顔つきで滞りなく仕事を進めつつも、彼の頭は一日中その事で埋まっていた。


そしてもうひとり。

「いらっしゃいませ、お待たせいたしました。ご注文承ります」

花が綻ぶような笑顔を見せながらも、頭の中では新たな恋人との関係に悩んでいる人物が。

――どうしよう。いくらなんでも毎朝これは気まず過ぎる。

客から受けた注文のケーキを手早く箱に詰めながら、一華はここ3日間の忠臣との会話を思い返していた。

一華は別にそっけなくしているつもりはない。ただ、現在のところ想いのベクトルは忠臣から一華への矢印が9割以上を占めている。彼女としてはまだ忠臣を知っていく段階であり、自ら無理して話を盛り上げようとまでは思えなかったのだ。

ましてや“ミスター不機嫌”は毎朝安定の不機嫌めいた表情をしている。これが照れ隠しや、彼なりに気を使ってるときの表情だという事はもう分かってはいるけれど……隣に座っている一華としてはやはり声を掛けづらい。

せめてもう少し愛想良くしてくれたら、こっちだって話し掛けやすいのに。

今までの恋愛遍歴の中でも、こんな悩みは初めてだった。そんな事で頭を悩ます自分に、一華はだんだん腹が立ってくる。

なんで私が前園主任のせいで悩まなくちゃいけないのよ、と。
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