不機嫌主任の溺愛宣言

何か彼が好きそうな話題を探って振ってみようか。いや、どうして私の方が気を使わなくちゃいけないのよ。可愛い女にはなれないって宣言して始めた恋愛なのに、いきなり甲斐甲斐しくそんな事をしなくちゃいけないなんて。

忠臣の愚直な純粋さに惹かれはしたものの、まだ心開けない一華は恋人としての義務と勝気な性格との間で頭を悩ます。

思わずケーキのトングを持つ手に力が籠もってしまいそうになり、一華は慌てて注意を払った。


時計の針は午前10時。22時間後にはまた同じ悩みがやって来る。


※※※


そうして訪れた4日目の朝。

一華はまず、運転席に座る忠臣の格好に驚いた。

「……もしかして主任、今日お休みなんですか?」

「ああ、そうだが?」

いつもダークカラーのスーツでビシッときめている忠臣の今日のスタイルは、アイボリーのタイトなニットに黒のイージースラックスだった。その姿を目に映した一華は明らかに困った表情を浮かべる。

「お休みの日までわざわざ送迎してくれなくても結構です」

「そうはいかない。俺には君に不快な思いをさせず職場まで送る義務があるし、それに何より……こ、恋人なのだからな」

赤い顔を隠すように眼鏡のフレームを直すと云う、とても分かりやすい照れ隠しをしながら忠臣はそれでもキッパリ言い切った。『恋人』と。

あからさまに照れてまでそんな単語を使った忠臣の様子に、一華は今朝2回めの驚きを見せる。
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