不機嫌主任の溺愛宣言

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ビジネスマンにとって手帳は必須だ。

そこには仕事のスケジュールはもちろん業務に携わる大事な情報やメモ書きなどが記されており、働く男の必需品であり個人情報や企業秘密を抱えたシークレットアイテムでもある。

そしてそれは、もちろん忠臣も例外では無いはずなのだが。

『姫崎一華に関する情報』

彼の愛用するホワイトハウスコックスの手帳。ブライドルレザーの渋みのある艶の手帳の中身には、ビジネス以上にトップシークレットな情報のページが設けられていた。

近くに誰も居ない事を確認し、忠臣は事務所のデスクで静かにそのページを読み返す。

【食べ物の趣向について】
・アイスコーヒーは不可(体質に合わないため)
・甘味は不可
・肉類(ガッツリしたもの)が好ましい
・特に焼肉が好ましい
【服飾の趣向について】
・好きな色はスモーキーカラー
・よく着けるアクセサリーはマチネータイプのネックレス
・私服はスカートが多い
・香水はシングルフローラル系のオーデコロン(推測)
・好きな花はクレマチス

生真面目さ漂う丁寧な文字で書かれたその情報は健気にも彼がコツコツと集め知り得た、まだ少なくも貴重な一華の情報だった。ただし、見返すまでも無くこんな事は忠臣の脳内には記憶されてるのだけれども。

正直、こんな事をいちいち手帳に書いている自分の行為は相当気持ち悪いのではと云う自覚は彼にはあった。が、それでも一華の事に関する事を少しでも記録しておきたいという35歳にして知った忠臣の生真面目でロマンチストな恋心なのである。

そんな訳で、37000円のビジネス手帳に刻まれたこのページは、福見屋デパートの年内スケジュールより、定例会議の記録より、絶対的トップシークレットの項目なのであった。
 
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