不機嫌主任の溺愛宣言
そして忠臣はそのトップシークレットのページに何度も目を泳がせる。明後日に控えた一華との初デートの事を考えながら。
――姫崎はどんな服装で来るだろうか。やはりスカートか。ならば俺はそれに併せどんな格好をするのが相応しい?なんせ12も歳が離れてるんだ、あまり落ち着いた格好で行くと不釣合いになるだろうか。少しラフなくらいが適当か。いや、だが、食事の前にアートギャラリーに行く予定を考えるとあまり軽々しいのも場違いと思われるかも知れない。いやだがしかし……
「あのー……前園主任……?」
「っ!?」
完全に思考があっちへ行ってしまっていた忠臣は、ふいに顔を覗き込みながら掛けられた右近の声に思いっきり動揺してしまった。ガタンと机に足をぶつけながら椅子から跳ねるように立ち上がる。
「あっすみません!集中してる時に声掛けちゃって!」
「い、いや。大丈夫だ」
我に返った忠臣は己の失態を恥じつつ、ズレてしまったスクェアフレームを直しながら椅子に座りなおした。
仕事中に俺は何を考えてるんだ。そう反省しながら手に持っていた手帳をパタンと閉じる。それを見て右近は少し安心した顔をしながら改めて声を掛けてきた。
「何か問題でもありましたか?主任、すごい険しい表情で手帳を睨んでたから、みんな萎縮してましたよ」
言われて初めて忠臣は気付く。自分の眉間に深い皺が刻まれてる事に。
「問題は……無いようなあるような……。いや、こっちの話だ。それより何か用か」
「物産展のディスプレイの件で業者が売り場の方に来てます。最終確認がしたいと」
そうなのだ。いよいよ来週に控えた物産展、例年なら忠臣は全身全霊でこの業務に取り掛かり他の事に脇目を振る隙など無い時期なのだ。けれど、今年は違う。
「分かった。すぐ行く」
今度は颯爽と立ち上がり、忠臣は急ぎ足でエレベーターへと向かう。
明後日のデートと来週の物産展。頭と体がふたつ欲しいと思いながら。