不機嫌主任の溺愛宣言
「……あの……どうしたんですか?」
いつまでも立ち尽くしたまま動こうとしない忠臣に、一華は少し不審な表情をして問い掛ける。すると彼はいつものようにスクェアフレームをキチリと直しながら
「女性が着飾る事に今まであまりいい印象は無かったんだが……嬉しいものだな。その……恋人がお洒落をして来てくれるというのは」
恥ずかしがりながらも、そんなストレートな言葉を返してきた。今度はそれを聞いた一華の胸がなんだか落ち着かなくなる。
「や、やっぱり変わってますね、主任は。これぐらい普通って言うか、当たり前ですよ」
慌てて視線を逸らしてしまった一華に、忠臣はふっと目を細めると
「行こうか。そろそろ電車が来る」
ゆっくりと彼女の歩幅に合わせるように歩き出した。
ふたりが並んで歩けば、道行く人の視線を奪う。紺色のカジュアルな1つボタンのテーラードジャケットにライトブルーのボタンダウンシャツで器用に寒色系の重ね着をした忠臣は、隣に並ぶ可憐なガーリースタイルの一華を静かに引き立たせた。
大人の男と、愛らしい彼女と。見目麗しいうえ、そんな理想のカップルのようなスタイルのふたりに、すれ違う人からは密かに羨望の視線が注がれる。しかも。
「バッグは重くないか?良ければ持つが」
「小さいものですから。平気です」
「そちら側は水溜りが多いな。靴が汚れるといけない、場所を代わろう」
「ちゃんと見て歩いてますから。平気です」
事あるごとにまるで姫君の如く忠臣が気遣うものだから、一華にはなおさら周囲から羨望と好奇とほんのりと嫉妬まで混じった視線が送られてしまうのであった。