不機嫌主任の溺愛宣言
静かな病室に聞こえるふたりの吐息となめまかしい微かな水音。それがしばらく続いた後、一華は忠臣の身体をわずかに手で押しやって距離を開けた。
「待って。誰か来ちゃうかも知れないから、今日はもう……」
予想以上に激しくなかなか離してくれない忠臣に、一華は一旦ストップをかける。そもそもここは病院だ。巡回の看護師がいつ来たっておかしくない場所だというのに。けれど。
「……抱きしめてくれと言ったのは、君だ」
診察のときから眼鏡を外している忠臣の涼やかな瞳が、情熱を灯しながら間近で一華を捉える。
抑え切れない愛しさに翻弄される喜びを知った35歳は、止まらない。
顔を赤らめ戸惑う一華を固く抱きしめ、惜しむようにもう1度深く唇を重ねると、最後に彼女の白い頬に優しくキスを落とし、忠臣はようやく身体を離した。
初めて彼のワガママを目の当たりにして、一華は頬を染めたまま少し唇を尖らせる。
「もう。極端なんだから。案外強引なんですね、忠臣さんってば」
怒らせたかと思ったが、一華の表情は照れ隠しに拗ねてるだけだと気付き、忠臣は嬉しげに目を細めて微笑んだ。
「それだけ君が愛おしくて仕方ないんだ」
そして、今度はゆっくりと彼女の頬を包むように撫でると
「強引な男は嫌いか……?」
瞳を覗き込むようにしてそんな事を尋ねてくる。
「げ、限度ってものがあります!」
一華は高鳴って仕方ない胸を手で抑えると、わざとそっぽを向いて答えた。その可愛らしい様子に忠臣はクスリと小さく笑いを零す。
「分かった。次からは加減を覚える努力をしよう」
そう言って、素直に頷きながら。
――初めて唇を重ねた夜。
ふたりはますます強くなった愛しさと共に、恋人としての絆が固く結ばれた事を感じた――