不機嫌主任の溺愛宣言
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前園忠臣は本来“モテる男”だ。
キリリと引き締まって整った顔立ちに高身長のスタイル。仕事に厳しいのは頼れる裏返しでもあり、それは大人の男の魅力でもある。なのに、この福見屋デパートで彼に言い寄る女性がいなかったのは『女嫌いの堅物・ミスター不機嫌』の肩書きがあったからに他ならない。
単純に皆、恐れあきらめていたのだ。この男に恋などしても冷ややかに一刀両断されるだけだと。
けれど、先日の朝礼で一瞬ではあるがその牙城が崩れた事は、彼を密かに狙っていた女性従業員たちを震撼させた。あのミスター不機嫌にも人を褒める心があるのだと。
ほんの僅かに慈悲の心を見せた忠臣に、恋に貪欲な女たちの狩猟心は燃え上がった。鉄壁だと思われた前園主任の不機嫌オーラを、今なら突破し彼を射止められるかもしれない、と。
「最近、女の子たちが忠臣さんの噂してますよ」
とある終業後の夜。ふたりでイタリアンレストランで夕食をとっていた時だった、一華が突然そんなことを言い出したのは。
「噂?」
一華の皿にバジルソースのたっぷり掛かったカルパッチョを取り分けながら、忠臣が不思議そうな顔をして聞き返す。
「前園主任は最近丸くなったって。狙うなら今だって」
白ワインを口にしながら言った彼女の言葉に、忠臣はますます目を丸くした。意味が分からないと表情に浮かべて。