不機嫌主任の溺愛宣言
「ところで、来週の休みだが」
ナプキンで口元を拭うと忠臣は気を取り直して話題を変えた。
「鎌倉の事ですか?」
「ああ」
季節は夏。福見屋デパートも正社員は恒例の夏休みを取る時期に来ている。派遣社員の一華は残念ながらそれに該当しないが、シフトの休みを忠臣の夏休みに併せて取る事は出来た。
その休みを利用して、忠臣は一華を鎌倉のデートへと誘った。さすがにいきなり一泊旅行とは言えなかったけれど。
それでも、避暑を兼ねてのんびりと趣のある海沿いの街を探索するデートは、ふたりにとってとても楽しみなプランだった。
「やはり車で行こう。その方が時間を気にせずゆっくり過ごせる」
「そうですね。行きたい所いっぱいあるからその方がいいかも。楽しみです」
嬉しそうに笑う一華を見て、忠臣はしみじみと胸に幸せを感じる。
キスを交わして以来、彼女は以前に比べてずっと忠臣に心を開いたように見えた。笑いかけてくれる回数も増えたし、おどけたり冗談を言ったり色んな顔を見せてくれるようになった。
そんな彼女の姿が見れるのは恋人である自分だけだと思うと、忠臣はどんな崇高な権利なんかより、ずっとずっと眩い特権を手にしてるような気がするのだった。
ただし。それは言い換えれば『独占欲』という非常に危なっかしいものでもあるのだけれど。
「俺も楽しみだ。君の行きたい所すべて回ろう」
「あはは。忠臣さんてば張り切ってる」
一華の輝くような笑顔に心酔中の忠臣は、ただただこの笑顔を見続けたいとウットリと願うばかりであった。