今でも ずっと
『送るよ。』

「うん。」


龍一の車に、自転車を乗せる。
いつも、自転車ごと送ってもらう。
なんか緊張してきて、お腹が痛くなりそう。
家に帰りたくない…。

『俺…、今度、研修行くから。』

「え? いつ? どこいくの?」

『イタリア。』

「え! 嘘!」


車のエンジンかけながら、ぼそっと呟く。

『9月から、2ヶ月間行くことにした。』


え!聞いてないよ。
っていうか、もう決めてたんだ。


「なにそれ?もっと早く言ってよ。会えなくなるじゃん…。」

『今の店で働いてた先輩が、向こうにいるんだ。いつか必ず、来いって言われてて…。』
「寂しいよ、嫌だよ。どうしよう…。」

『クリスマスまでには、とっくに帰ってきてるから。』

「……。」

『来年から、本格的に留学しようと思う。』

「…え、なんで、全部決めてから言うの? 留学って…。」

我慢してた涙が、こぼれそうだよ。
わけ分かんないよっ!会えなくなっちゃう…。嫌だよ…。


『イタリア語の勉強も始めたばかりで、まだ通じないかもしれないけど、向こうで、本場の料理を学びたいんだ。本気だよ。
将来の自分のために、頑張るんだ。
後悔したくないから。ずっと考えてたんだ。…ごめんな。』


「勝手に決めて、突然言われても…。
私、ひとりになっちゃうよ。
寂しくて耐えられないかも。」


『美紅…。
時々は、帰ってくるように頑張るからさ。』

「……。」


会話がないまま時間は流れて、いつもの場所に着く。


もっと、言いたいことが、あるはずなのに…。言わなきゃいけないはずなのに…。
涙しか出てこない。


また、メールするからって。
クラクション鳴らして、龍一の車は帰って行った。


なんだよぉ!
寂しすぎるよ。
寂しくて、死んじゃいそうだよ…。


おいてかないでよ…。
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