狂愛

「…………。」

彼女は彼に見とれて言葉を忘れる。
周りの声も聞こえない。
まるで、別の閉ざされた空間に二人でいるかのように、彼女は彼の姿をまじまじ見ていた。
彼と彼女が会うのは学校内だけであり、中学を卒業してから入学する間は、携帯で連絡は取り合うものの、会うことはできなかった。
それは、彼が忙しいせいもあり、また、そういう関係ではないが故に、お互いが”会おう“と切り出すことがなかったためでもあった。
今、彼女の前にいるのは、この間までの中学生だった彼とは違い、大きく大人に近づいた高校生の彼だった。

「なんだよ、黙りこんで。ほら行くぞ!」

彼は彼女の手首をつかみ、校舎へ足を進める。それは、いつかの光景とよく似ていた。途端に思い出が脳裏に浮かぶ。

「これが最後か……」

「ん?何か言ったか?」

「え…ううん。何にも。」

彼女の漏らした言葉に、彼はすかさず反応した。
慌てて彼女は言葉を隠す。
”これが最後“。彼は高校を卒業したら、正式に研究チームの一員として迎え入れらることが約束されていた。
つまり、小学・中学と同じ道を進んできたが、高校生活で最後になる。
そういう意味合いで、彼女はこの言葉を口にした。
< 30 / 62 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop