狂愛
卒業式当日。
式を終え、教室で担任の教員が別れの挨拶をし終え、自由解散となった直後、彼女は席を立ち上がり手際良く、帰り支度を始めた。
別れ惜しみの時間など、関係なかった。彼女は、この場から早く立ち去ろうとしていた。
その一方で、彼のまわりには沢山の女子生徒達が集まってきていた。
彼と会える最後の日ということもあってか、普段は恐れて近づけない彼のまわりを沢山の人達が囲っていた。
だが、相変わらず彼は無反応。
一言も言葉を返そうとはしなかった。
彼の席のまわりは女子生徒達に囲まれて、彼の姿が見えなくなっていた。
彼女はそれを好都合に思い、帰り支度を整え終え、立ち去ろうとした瞬間―。
「待てよ!」
彼は彼女の動きを観察していたのか、すぐに席を立ち上がる。
その一声でクラスに静寂が広がる。
彼女は彼の声に反応し、振りかえる。
「何帰ろうとしてんだよ…」
彼の声は、やけに小さかった。
その声は彼女の心を揺さぶった。
懐かしく、忘れられない彼との思い出たちが脳裏によぎる。
最後の瞬間がこんな形でいい訳がない、そう思う彼女であったが、一転、このまま何もなかったかのように終わりにしたいという気持ちもあった。