狂愛

「それなら無論。わたしどもは、あなた側につかせて頂きたい。」

彼は深くため息をつき、考えを巡らせる。何しろ1日での出来事だ。
彼もそう上手く事を坦々とは進められやしない。
何せ相手は、国内トップの父親。
油断禁物。彼の指示に命が掛かっているのだ。
男たちをボスの元へ彼女なしで行かせることは、男たちの任務失敗を意味する。ボスは命を粗末にする男だ。
男たちは間違いなく殺されるだろう。
もし、彼女の誘拐が成功していたとしても、同じことかもしれないが…。
そして、彼女を返すということは絶対にあり得ない選択だ。
彼女の安否が保証できなくなる。
男たちを殺して、真相をあやふやにすることはわけないが、そんな汚い真似はしたくはなかった。

彼は、内側の扉を開ける。
所内移動装置と呼ばれる、空中浮遊式で最大10人乗りの装置に彼女を前の席(座席が前二席だけついていて、後ろは立ち乗りスペース。本来ならば専属の二人で操作を行い移動させる)に座らせ、彼は下におり、男たちを出迎えるように立ちつくしていた。
< 56 / 62 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop