ナツイロ~俺様部長様とわたしの秘密~(2014年夏短編)
「えー、金賞おめでとう。これはみんなのたゆまぬ努力とこの俺の素晴らしい指導の賜物だと俺は思っている」
それ、顧問の前で言っちゃう?
まあ、正論だけれども。
安定の俺様部長様節ですね。
「だが、“ダメ金”ということは、本選には進めない。俺たち3年生の夏はこれで終わり──つまり、今日で引退することになる」
あ、そっか。今日で引退しちゃうんだ。
もう二度と、このメンバーで音を奏でることはできないんだ。
深月先輩からの屈辱的なお説教も、秘密の逢瀬も、もう二度と…。
永遠の別れをするってわけじゃないのに、それがなくなってしまうと思うと、悲しい。
あ、俺様部長様がありがたーいお話をしているのに、涙が邪魔してちゃんと聞けない!
「玉井っ!」
「ハィィ!」
突然呼ばれた名前に、反射的に反応した。
部員もいつものお説教かな、と思ったみたいで、クスクスと笑い声がバスに響いた。
「泣いているのか?」
「な、泣いていませんっ!」
「泣いている玉井にはMVPをあげたいと思う。2年生ながらクラリネットのファーストとして俺と頑張ってくれたからな。みんな、どうだ?」
俺様部長様が部員に呼び掛けると、なんと拍手が起こった。
なんか、報われた気がした。
わたしの恥も、無駄じゃなかったんだって。