ロールキャベツ
話し終えると、彼女は言葉を探すこともなくただ静かに黙っていた。
娘がいることは、少し前に言っていた。
だけどその娘が、僕を嫌い、信じていないことなんて、考えてもいなかったんだろう。
僕は今の状況を、しっかりと受け止めている。
何か変化を起こそうなんて、微塵にも思っていない。
これ以上悪い方向へ流れるのは避けたいからだ。関わろうとすればするほど、今以上に娘に負担をかけるだけである。
良い方向へ向かうことは、きっと難しい。
彼女にも別に、何かを求めているわけではない。
「暗い雰囲気になってしまってすまないね…」
「いえ…ただ、驚いて」
「…ですよね」
続く、無言の時間。
言わない方がよかっただろうか。
そんな疑問と闘いながら、彼女の分のコーヒーのおかわりを注ぐ。
「あなたに、娘の母親になってほしいわけじゃないんです」
「…え?」
「僕のパートナーが、娘の母親である必要はありません」
僕は、めちゃくちゃなことを言っているんだろうな。
僕に娘がいるっていうことは、その母親に彼女はなるというわけで。
それなのに僕は、それを真っ向から諦めている。
だけどこれが、本心だ。
あの子はきっと、要らないと言う。
いや、要らないとも言ってくれないかもしれない。
今さら母親なんて、必要もないだろう。
「私に、欠陥があるということですか…?」
「それは違うよ」
彼女は、素晴らしい人だ。
エイジングケアのクリニックを起業して、バリバリ働いている。
逞しいのにどこか儚げな雰囲気が漂っている所が、顧客以上の魅力を感じる部分になったんだと思う。
「娘は…きっと、あなたのことは何も思わないと思う。
だけど、僕と関わってる、その事実があの子を苦しめてしまう」
「本当の…親子なのにですか?」
「もう金輪際会うことがないかもしれないです」
なんだか惨めになって、仕方なく笑った。
その空気すら重く感じられる。
「会いたいと、思いますよね?」
彼女のその質問には、答えることが出来なかった。