ロールキャベツ
安らかな朝だった。
大量に届いた年賀状を整理して、彼女の作ったおせちと雑煮を食べて。
僕そこそこ料理はできるから、毎年適当に作っていたけれど、やはり誰かに作ってもらうというのはとても良かった。
「美味しいよ」
照れたように笑う彼女は、40手前には見えないくらい若い。
料理をする彼女の後ろ姿を、少しだけ、娘に重ねる…
あの子は料理が上手だったな。
家政婦の小島さんに教え込まれていたのかは分からないが、妻も料理が上手だったから、遺伝だったのかもしれない。
僕とあまりコミュニケーションはとってくれなかったが、料理はいつも、作ってくれていた。
それを仕方なく、義務としてこなしていたのかもしれない。
それでもいい。
僕の量を、作ってくれていることに変わりはない。
娘の味は、妻の味にそっくりで。
今、娘に会えない状況であの味を思い出せば、それで胸がいっぱいになる。
娘に会いたくても…会えない辛さを、埋めてくれる思い出。
…彼女は娘の代わりなのだろうか。
いいや、違う。
僕は、彼女も、娘も、両方とも手に入れたいんだ。
両方とも大事にしたくて、両方とも守りたいんだ。
それほど…欲張りなんだ。
今娘と会えないのは、その仕打ちなのかもしれない。
仕事も、家庭も、いろいろと欲しがるから僕は…娘を本当に大事には出来なかったのかもしれないよ。
「達義さん?」
「あ…はい」
「上の空でしたよ」
娘のことを考えていると、すぐに回りが見えなくなってしまう。
彼女といるとき、仕事をしているとき、ところ構わずいきなり娘のことを思い出してしまって、誰かの声により現実に戻る。
僕の知ってる娘は、もういない。
彼女と出会えたということは、娘という大事な存在の枠を、埋めろということかもしれない。
僕がいつまでたっても、娘を忘れずにいるから。
娘にとっては、僕が密かに大事に思っているこの気持ちも、うざったいのかもしれないな。
この先、彼女とのことだけを考えろと言われているのだろうか。
広いベランダに目を向ける。
眩しすぎない、優しい光がそこに差している。
朋香…
僕が朋香のことを忘れたら、少しでも楽になれるのかい…?