ロールキャベツ
26歳の春
4月10日…
0時ぴったりにメールをくれていたのは、あさみと紘だった。
今日までの約二ヶ月間、この二人には沢山の迷惑をかけた。
これからももっと、かけてしまうかもしれないけれど。
だから、私が元気でいることを伝えるために明るい文章を打った。
新年度が始まってさらに忙しく、なかなか会えない中で決定した報告も入れて。
少しは安心してくれるのかな、と思うと自然に頬が綻んだ。
───あの日、彼に婚約破棄された日からもう二ヶ月も経つ。
長いようで、短かった。
それはやっぱり、二人が居てくれたからだった。
本当に久しぶりに再会して、一か月も経っていなかった頃だったのに、
全てを紘に話すことができたのはなんだか不思議だったけど、
理解して私を励まそうとしてくれた紘がそこにはいたから、良かったと思ってる。
あさみと同じような存在がもう一人できて嬉しかった。
私は、自分のことを強くて自立した女だと思ってた。
だけど、それは全然違うってことを知った。
たった一人の男を、彼を思って何日も泣いて、泣いて。
残された婚約指輪と、連絡先にすがって。
あんなにも悲しい気持ちになったのも初めてだったし、
あんなに涙が出たのも初めてだった。
お母さんが死んだときも、
高校を卒業するときも、
大学に受かったときも、
あんなには泣かなかった。
そんなにも彼のことが好きだったのかと思い知らされた分、
私と彼を繋いでいたものはとても弱かったと思い知った。
決して、お父さんのせいじゃない…
そう教えてくれたのは、二人だったし、さらに強く恨んだ私を叱ってくれたのも二人だった。
そう……少しだけだけど、強くなれた気がするのは、二人のおかげなんだよ。
ありがとう、本当にありがとう……
『ありがとう。もう26歳になっちゃった。
少し報告が遅くなったけど、今年度から副主任に昇格しました。
これも二人のおかげです、ありがとう。
これからは仕事に力を入れて頑張ろうと思う。
こんな私だけど、今年も仲良くしてやってね』
26歳の春は、素敵な春になりそうだった。