ロールキャベツ
「よっ」
マンションのエントランスの前で小さく手を挙げて笑ったのは、紘だった。
「びっくりした……仕事は?」
「今日は早く上がれた。ケーキ……買ってきたんだけど」
私と紘はお互いの手元をみて、思わず吹き出した。
駅前の、同じケーキ屋さんの袋。
「お揃いだ」
「そうね」
柔らかく笑った紘を、マンションの中に入れた。
「もう夕飯は済ませた?」
「うん」
「よかった。何も作ってなかったから」
「外で食べてきたんだ?」
「うん。ホテルの近くに美味しいお寿司屋さんがあって、そこで」
「へぇ~いいなぁ、寿司」
「紘の誕生日の時に奢ってあげる」
「やった」
嬉しそうにする紘だけど、きっと私に奢らせたりしないんだろうな。
意外とレディーファーストだったりするしね。
紘が買ってきてくれたケーキは、ショートケーキとチョコレートケーキ。
私は、フルーツがたくさんのったタルトをひとつだけ買った。
タルトは、紘と半分こして、あとはひとつずつ食べよう。
包丁で綺麗に切って、お皿に盛った。
ケーキに合う飲み物を冷蔵庫で探るけど、ビールしかない。
こんな時こそワイン、シャンパンでも飲みたいんだけどね…
500MLのビールを2つとって、リビングに向かう。
案の定、ビールとケーキ?と紘に笑われたけれど。
「副主任昇格と、誕生日、おめでとう」
缶のままのビールを小さい音をたてて乾杯する。
私はありがとうと言ってから、ビールをぐびぐび喉に流し込んだ。
あぁ、美味しい。
「副主任ってすごいじゃん」
「そんなことないよ。マネージャーが変わってね、私のことを評価して下さってるんだ」
前までお局のおばさんだったマネージャー。
森崎さんが入社したときからずっとエントランスフロアで働いていて、よく苛められたらしい。
私はよく、森崎さんとおばさんについての愚痴を言ったものだった。
今は厳しいけど優しいおじさんマネージャー。
もう愚痴なんて、言わない。
私の話を聞きながら、別に面白くもないのに笑う紘に首を傾げると、
「朋香、楽しそうだな」
と言われた。
「そうかな?」
「うん、いきいきしてる。
よかった、元気そうで」
ホッとしたように言う紘の言葉。
大切な人が安心してくれると、こっちまでホッとする。
たくさん心配かけてごめんね
もう大丈夫だよ
心の中で紘に言った
きっと伝わると思う。