ロールキャベツ


「ちゃんと話さなきゃいけないのは、

わかってるんでしょ?」

何度も頷いた。

そう、分かってる。
結婚する相手に、言わないわけにいかないもの。

「分かってる。けど…」

「知られることが怖いの?

朋香のことを好きになってプロポーズまでしてくれた人でしょ?
朋香の全部を受け入れてくれるんじゃないの?」

私の、全部…

あの人に会いたくない気持ちも、それでも結婚はしたい気持ちも、分かってくれる?

「ちゃんと話せばきっと、大丈夫」

あさみの言葉で背筋が伸びた。

そうか、これは試練なんだ。
私が幸せになる前の、試練。

これを乗り越えたら、あの人のことなんか考えずに、彼と暮らしていける。


彼と、あたたかい家庭を築ける。
夢にまで見た、私が体験出来なかった家庭を…



「ちゃんと、話す。年明けになると思うけど」

「うん、それでいい。大事な事だからね」

「あ、でも…バージンロード…」



「そんなの私が一緒に歩いてあげるじゃん」

自慢げに言うあさみのジョークに、笑った。


「じゃあ、また電話する。仕事頑張って」
「うん、おやすみ」

あさみとの電話を切って、すぐにホテルの中に入った。




その二日後は、大晦日だった。

私はやっぱり出勤していて、面倒くさいから家にも帰らないことにした。

あのマネージャーのおじさんに頼んで作ってもらった、ちょっと豪華なそばをすすりながら、
毎年恒例の歌番組を清掃のおばさんと見たりして。


こんな年越しも悪くない、なんて思ったり。


シャワーを浴びて、念入りにスキンケアをしているとiPhoneが光る。

あさみからのメッセージだった。
明けましておめでとう、かな?


『明けましておめでとう!今年もよろしく~


朋香のお父さんに会ったよ。
仕事頑張ってって言ってた』

二行目に目を奪われた。
私とあさみの地元は同じだし、会うのは別に普通だけど。



頑張ってなんて、言ってくれたことないよね。

なのにあさみを通す建前なら、軽々しく言えるんだね。


考えれば考えるほど、おかしくなりそう。

新年早々嫌なことがあったと思う私は、

最低なのかもしれない。
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