ロールキャベツ

「よっ、暇人」
後ろからポン、と私の肩に手を置いた人。

「暇人で悪かったですね」
「相変わらずだなー、実家は?帰らないの?」

いくら親友の彼氏で、親しい上司だからってねー…

言えることと言えないことがある。

「誰かさんみたいにみんな休みますから」
適当に返しておく。

「お前それ、嫌味だろー?
俺すっげぇ忙しかったの」

ハハハ、と笑う森崎さんの弱みを私は知ってる。

「あさみのお父さん、温厚な人なのに、おかしいですね。なんでだろう、私も不思議です」

そう言うと、森崎さんが黙りこんだ。
チラッと顔を見ると、面白いくらいに眉を下げている。

今にも泣きそうな、中学生みたい。

「俺、どうしたらいいんだろー、

気に入られてないっぽいんだよなぁ」

「完璧に嫌われてますよね」

「吉良、ひどい。
俺けっこーナイーブなんだよ」

絶対嘘でしょ。
さっきまで眉を下げてたくせに、もうへっちゃらな顔じゃないですか。


「まぁ、大丈夫かー」
鏡で前髪を整え出すあたり、かなりのメンタルの強さだよね。


森崎さんは私よりも5つ年上で、フロントの主任。
正直、お金持ち。

経済力が安定していなくて付き合いを反対されたりする場合がよくあるらしいけど、
そうじゃないのにあさみのお父さんが好かないのは…

まぁ、言ってしまえばその性格だと思う。

お茶らけ過ぎてるんだよね。
遊び歩いてる若者みたいなチャラさがある。

言うジョークがど真ん中なわけでもないし、何かに特別長けているわけでもない。


…って、上司に向かって失礼すぎるかも。


でも私は、森崎さんのことは嫌いじゃない。

やっぱり憎めないんだよね。こういう人。



「――でしたら、本当に近いのでもし良ければご案内致しましょうか?」

パッと切り替えてお客さまの相手をしてるときは、やっぱり頼れる人。


久しぶりにチーフの森崎さんがいると、仕事もスムーズにいく。

私もいつか、この人みたいな主任になりたい。

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