確信犯
❇~❇~❇
彼は。
私の名を、呼ばない。
あれは……雷が鳴り響く夕方。
業務後、白澤印刷の会長室まで行くようにと秘書課から連絡が入った。
私が呼び出された理由は、不明。
秘書の姿が見えない薄暗いフロアで、重厚な扉をノックしたら。
入室を促す声がした。
心を決めて会長室に入ると、私を呼び出した相手が机越しにいる。
白澤印刷会長、白澤有雅さん。
確か、50歳前半。
食事会で話した事のある息子、白澤匠室長とさほど似ていないけど。
品があって、切れ長の目元が涼しげで、大人の男性の色香がある。
頭を下げた私に。
「奥平(オクダイラ)さん、だね」
艶の滲んだ、力強い声が届いた。