確信犯
会長が、“美濃部”という人間と繋がりがある事を私は知った。
一ノ瀬さんの勤務先に、その名字の人間がいる事を偶然、聞いていた。
だから、肩透かしを食らわされているように思えた。
「設計士の美濃部さん、なんてそうそういないでしょう。今更――」
「――だから、僕じゃないよ。じゃ、残業しに会社に戻るから」
こちらの思惑には振り回されず。
美濃部は立ち上がった。
ついでに、会計の伝票まで取って。
思わず、手を引き留めると。
「株、儲けたトコだから?」
疑問形で、手を押し返された。
会長の予定表に『設計士 美濃部 』と記入がある事は確認したのに。
株価の資料が揃えてあったのに。
美濃部の髭に刺激された首筋が。
ジンジンと嫌な後味を発していた。