確信犯
あの時。
匠の様子は、おかしかった。
『忘れてよ』と言いながら。
刻み込むように、私を抱いた。
初めて私の名前を呼ぶ声は。
どうしようもなく、優しかった。
「俺は『跡継ぎには不合格』なんだってよ。不気味だ、誰もがそう敬遠してる。お前は…どうしたい?」
自嘲めいた声。
何があったか、なんて。
分からない。
幼少の、7年分の記憶ごときで。
出生が不確かだとでも言うの?
取り戻せない、匠の記憶。
ジレンマを抱えて。
誰よりも気味悪がっているのは。
匠本人。
私は。
自分のコトしか考えてなかった。