私と上司の秘密
「凛もさあ。
俺のこの手が、好きなんだよね?」

彼の視線はまた私に向け、私の心を読んでいるかのように、突き刺さってくるように感じる。


私に囁いた彼の顔には、月の光りが照らされている。


その彼の口元には、三日月のような黒い笑みを浮かべ、彼の囁きは、まるで悪魔のいざないのように感じた。


私の顔のすぐそばに彼の手が近づいて、その手の甲で、私の頬をそっと撫でた。


それは、誘惑にも似た彼の行為。


『彼から、いつもほのかに香るのは、男性物の香水だろうか?』


すでに脳が覚えている、鼻腔をくすぐるような香りと手の触れた感触で刺激され、彼の手で撫でられた私の頬は、赤みを帯び、身体中に熱をもつ。


私は、悪魔のような彼の囁きに導かれるように、ためらうことなく握りしめ、自分の頬へと近付け、頬擦りしてみたり、甘噛みをしてみたりした。


しかし、男性は、私の行為に嫌な顔をすることなく、拒否する事も拒絶する事も一切なく、ただ、その光景をじっと眺めていた。
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