私と上司の秘密
私は、会社の駐車場に停まった車から降り、
一人で歩きだそうとすると、

「ちょっと、待て!」

と、いきなり私の手を掴んだ。


「ここで、マズイんじゃないですか?」

と言って、私は圭介の手を振りほどこうとしたが、更に、つよく握りしめてきた。


繋がれた手と圭介の顔を交互に見返す。


無言のまま、圭介は引っ張るように歩く。


私は圭介の歩幅に合わせようとして、早足になる。


私の足音に合わさって、私のヒールの低い靴から高いカンカンーっと音が鳴る。


すると直後、圭介の足が止まる。


圭介は振り返り、

「ごめん。」

と言った。


「本当にごめん。
凛のこと、考えて歩かなくて。
凛が、俺と一緒に手を繋いで歩くのをあんまり拒否するから、ちょっと、頭にきて…。
俺って、本当、最悪。」

と最後は気弱そうに話していた。


「大丈夫です、って。」

「大丈夫じゃないよ…、俺。」

建物に入ると同時に、手を離してくれた。
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