逆らっても無駄
「安西先輩」

畠山君は私の鼻先ギリギリまで顔を近づける。

唇が触れてしまいそう。

「何ですか、涎なんて垂らして、はしたない…舌まで出して、そんなにだらしない顔、見せるもんじゃないですよ?」

「で、でも…」

「でも?」

畠山君は怪訝な顔をする。

「それって口答えですか?」

「っ…」

ピクリと、私は体を震わせる。

いつも温厚な畠山君だけど、こういう時は寒気がするほど冷徹な顔をする事がある。

閉め切ったこんな夏の薄暗い一室でも、血の気が引くほどに。

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