襲撃プロポーズ【短編集】
(あ、でも一度だけ…)
ふと顔を上げ少し前の日のことを思い出す久保姫。
それは嫁ぎ先が結城殿の家だと父親に告げられた翌日のこと。
久保姫は隠してきた恋心を胸に少しだけ小さな家出を試みた。
小さな小さな反抗だった。
そしてそこで一人の男の旅人に助けられたのだ。
その日一日久保姫は初めて姫としてではなく一人の人として接してもらうことになる。
そんな彼に彼女は初めて自分の秘めた恋心を明かしたのだ。
これが最初で最後だと思いながら。
その彼もまた叶わぬ人を想っていると言っていた。
(どうか彼の恋が叶いますように)
どうか自分の分も幸せに。
(私は…あそこまでとは言わずとも…男らしい方だったなら笑窪は幸せにございます)