襲撃プロポーズ【短編集】
そんな彼女の耳に突如として降り注いだのは深く低い男の声。
(この、声…?)
初めて聞いたはずのその声に、何故だか胸の奥がじわりと反応して。
何故だかわからないがとても切なくなって。
思わず顔を上げてしまいそうになる。
しかし久保姫とて武家の娘だ。
危険があるやもしれないこの状況でそう簡単に姿を晒すわけにはいかない。
況してや彼女はこれから輿入れする身である。
襲撃されたということは、人質として捕らえられる可能性は十分。
何かあれば結城の家に迷惑がかかるかもしれない。
そんなことになれば岩城の御家存続にも大きな影が落ちるのは間違いないだろう。
それは久保姫が自ら命を絶ってでも阻止しなければならないことであった。