襲撃プロポーズ【短編集】
姫様の憂鬱
それは、賑わう日本の中心からは随分と距離を隔てた東の地。
独眼竜がその名を轟かすもう少し前のとある日のお話。
カタン、カタン
緑が広がる自然豊かな静かな道を一つの輿が軽快な音を立てて進む。
向かう先は結城(ゆうき)氏の屋敷。
一歩、一歩また一歩。
輿は着々と目的の場所へと近付いていた。
「……はぁ…」
ゆらりゆらりと揺れる腰の中。
美しく晴れ渡る空とは対照的に一人小さく物憂げな吐息を漏らすのは、奥州一と謳われし美しきお姫様。
岩城重隆(いわしろ しげたか)が娘・久保姫(くぼひめ)である。
長く伸びた漆黒の髪に黒曜石のような瞳。
そしてなにより笑うたびその両頬に出来る笑窪がなんとも愛らしい。