襲撃プロポーズ【短編集】
面識のない相手に嫁ぐことに違和感かあるわけではない。
それはこの時代そう珍しいことではないからだ。
晴綱は幼い頃より姫を蝶よ花よと大切に育ててきた父が見初めた男。
恐らく何一つ申し分ない男なのだろう。
それは彼女も理解していた。
(私が嫁ぐには過ぎた相手なのかもしれませんね…)
この御家第一の世の中、政略結婚など当たり前で。
縁談が成立するのは喜ばしいこと。
久保姫とてそれに楯突くつもりなど毛頭ない。
武家の娘に生まれた以上、やり遂げねばならぬ使命がある。
恋い焦がれる相手と結ばれることなど滅多にない。
そんなこと期待してはならないのだ。
しかし些か自己評価の低いこの姫様は、この纏まった縁談を素直に喜ぶことが出来ずにいた。