襲撃プロポーズ【短編集】
そんな理想の男性像を思うとき、久保姫には必ず思い浮かべる姿があった。
それはたった一度だけ見た鷹狩りをする男の姿。
久保姫がその男を見たのは本当に偶然のことだった。
家の者には黙ってほんの数人の女中を連れ出して少しだけ遠出したときのこと。
その先にその人はいたのだ。
随分と遠目から見ただけの、向こうは彼女の存在に気付いていなかったであろう一方的な出会い。
名前すら知らない相手。
しかし、とても勇ましいその背中と一瞬だけ見えた太陽の似合う笑顔だけはよく覚えている。
その姿はまさに彼女の理想。
それは久保姫に芽生えたたった一度の恋心であった。
それを久保姫は大切に大切に心に閉まってきたのだ。
誰にも言うことなく。