記憶ノ時計
「ただいま帰りました」


大きな家の大きな玄関で立って涼馬が言うと、すぐにお手伝いさんらしき人が出てきた。


「お帰りなさいませ、涼馬さん」


「ん、ただいま」


涼馬が言うと、お手伝いさんらしき人は私の顔をのぞき込んだ。


「あら?綾那さん、目が覚めたのですか?!」


「え、なんで私の名前…」


お手伝いさんらしき人は私にかけよってきて両手をギュッと握りしめた。


「よかったですね、綾那さん!心配したんですから!」


「あ、ありがとう…ございます…」


顔も名前も知らないおばさんにそんなことを言われ、私は少し戸惑う。


「斉木さん。綾那、今一時的に記憶がないんだ。だからあまり刺激の強いことは…」


涼馬が言うと、斉木さんというその人は目を丸くした。


「まぁ?!そうなんですか?そう…記憶が…」


「そう。だから、記憶が戻るまでの間、うちで預かることにした。俺を怜馬の部屋から近い部屋に綾那の荷物を置いておいてくれ」


「かしこまりました」


斉木さんはペコリとお辞儀をして、涼馬さんから荷物を預かった。


斉木さんに部屋まで案内され、私はお姫様が住んでいるような豪華な部屋にこれから住むこととなった。
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