恋愛ジャーニー
「あの、すみません」
突然、澄んだ声が背後から聞こえた。
振り返ると、ド田舎にはとても相応しくない真っ白なスーツを身にまとった、細見で長身の男の人が立っていた。
逆光が眩しくて顔はよく見えなかったけど、柔らかい空気を纏った人だなと思った。
「……あの?」
「ふあっ!」
ぼーっとしてしまっていたことに気付いて、奇声をあげてしまった。
慌てて口を手で覆って、体裁を立て直す。
「は、はい、すみません、なんでしょう」
「ここって、桜木町で合っていますか?」
「いや……ここは隣の弥生町ですが」
「そうですか……」
彼は困ったようにつぶやくと、真っ白なハンカチを取り出して額の汗を拭う。
いくら涼しくなってきたとはいえ、スーツで太陽の下にいるのはまだやはり暑いらしい。
「いつも車を使ってしまうものですから、今日は電車とバスを使ってみたのですが、バス停を降りてからいくら歩いてもなかなか目的地に着かなくて」
彼はハハハ、と小さく笑った。