名もない手紙
名前も書かずに、
あたしはお気に入りの封筒に
手紙を入れ、のりでしっかりと
とめた。
これを中澤くんが読んだら、
どんな気持ちになるのかな。
やっぱり、こっそり
神城先輩に渡すべきだったのかな。
知らないふりして、
置いて来るべきだったかな。
それにしても、何で、
持って帰って来て。
返事まで書いてるんだろう。
自分の行動に、たくさんの疑問を
持ちながら。
あたしは眠りについた。
朝起きて、学校に行く準備をして、
いつもより早く学校に向かった。
歩きながら、そわそわして、
周りをきょろきょろ。
何だか落ち着かなくて。
玄関に着くと、
鞄からこっそり手紙を取り出して。
周りに人がいないのを確認すると、
静かに中澤くんの下駄箱に
手紙を入れた。
急に恥ずかしくなって、
やっぱりやめようかと思った時。
「菜々子?」
向こうから声がして、
あたしはばっと中澤くんの
下駄箱の前から退いた。
声の主は、蓮と直斗で。
「何やってんの?」
直斗の質問に。
「え、あ、うん。何も!あはは…」
苦し紛れに誤魔化して、
あたしは自分の下駄箱で
靴を履き替えた。
「2人は?朝練?」
「そう、朝練」
「もうすぐ大会だしな」
2人はそろってサッカー部で。
時期キャプテン、副キャプテン
とか言われてる。
要するに期待されてるってことで。
「頑張って…ね」
あたしはそれを言い残すと、
走って教室に向かった。
ばれてませんように。
ばれてませんように。
それだけを考えながら、
普段通り鞄から荷物を出した。
いつもより30分も早く
学校に着いたから。
しかも手紙を入れたせいで。
みんなが来るまでの時間が、
すごくすごく長く感じた。
「菜々子ちゃん、おはよう」
「わっ、み、都ちゃんか」
後ろから肩をぽんと叩かれ。
びくつくあたし。
「どうしたの?菜々子ちゃん」
「あ、ううん!何でもないんだけど…」
クラスメイトの棚橋 都ちゃんは、
すごく可愛くてほんわかしてる子。
クラスの中でも結構仲良しで、
よく話している。
朝のHRまで都ちゃんと
他愛ない会話をしていると。