異次元バスでGO!
「そんなに降りさせたきゃ、あんたが降りりゃあいいだろ! 俺はもう決めてんだから、絶対ここでは降りない」


「あたしは……!」
 おばさんは、ギリギリ拳を握りしめる。

「あたしは、やっぱり乗らない。あなたもやめなさい!」


 また手をのばしてきそうなおばさんに、佑香はあとしざりする。


「運転手さん、あの人乗らないって言った」

「とっととドア閉めちゃってよ」

「へいへ~い」

 ぷしゅーっと閉まった折り戸を、おばさんはバンバン叩く。

「待ちなさい、あんた達! もうここには二度と帰ってこれなくなるんだからね」


 おばさんの必死な様子に、佑香の決心は微かに揺れる。 

もう二度とここには帰れない。本当に? いや、ないって。だけどまじだったら? 


――最高じゃん。その覚悟で来たんだから。

「決まったんならさぁ、運転手さん、バス出しちゃってよ。うるさくて敵わん」
 よれよれのスーツのおじさんが、ロープを首に巻きながらぼやいた。

 ロープ? まじまじと眺める佑香に、おじさんは口元だけで笑みを作った。


「おじさんな、死に場所探しに行くんだ。けど、おめぇらほんとにいいのか? まだまだ人生これからだろうに」


 え……こわ。佑香は内心ごちる。


「子供だからって、人生これからって決めつけんなよ。もう終わってんだよ」

 中学生が怒鳴ると、おじさんは肩をすくめた。


発車ブザーが響く。

「それでは皆さん、席にお着きください」

 エンジンがかかり、車体が振動する。佑香達が慌ててシートに座ると、運転手達が勢いよくアクセルを踏んだ。


バスは、たった五人の客を乗せて風のように走りだした。

 窓の外の景色が、凄まじい速さで移り変わる。
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